二〇二六年六月十九日号
定価四五〇円(税込)
◆ 緊急特集 ◆
「愛」を売る教団の闇
信者二名が全財産寄付後に自殺──新興宗教「真心の泉」の恐るべき収奪構造
取材班が撮影した教団集会所の外観
「真心の泉」の集会所が入居する雑居ビル。外壁のタイルは剥落し、一階のシャッターは下りたまま。この二階で、信者たちは毎週「心の解放セミナー」に参加していた=本誌取材班撮影
ここ二、三年、首都圏の一部で「真心の泉」という名前をちらほら耳にするようになった。宗教法人。「愛は行為である」を教義に掲げ、都内西部を中心に五箇所の集会所を運営。信者数は公称三百名。孤独を抱えた人々に居場所を提供する──と、ここまでは体裁が整っている。問題はここからだ。本誌の独自取材により、同団体の信者二名がここ半年の間に相次いで命を絶っていたことが判明した。しかも二名とも、死亡の直前に全財産を教団に寄付していた。

CASE 1 ○市のケース──五十四歳、元営業部長の末路

○市で一人暮らしをしていた中沢敏夫さん(仮名・五十四歳)の遺体が自宅アパートで発見されたのは今年三月十九日のことだった。死因は練炭による一酸化炭素中毒。近隣の住人が異臭に気づき通報した。遺書はなかった。

中沢さんは都内の大手機械メーカーで営業部長を務めた人物だ。勤続三十一年。二年前の早期退職制度に応じて退職し、その後は再就職先が見つからないまま貯蓄を取り崩す生活が続いていた。妻は退職の翌年に実家に帰り、事実上の別居状態にあった。

中沢さんが「真心の泉」に入信したのは昨年の夏だ。○市から電車で三十分ほどの集会所に、毎週のセミナーに通い始めた。

遺品整理を行った弟の中沢昭彦さん(仮名・五十一歳)が、本誌の取材に応じた。

取材に応じた遺族
本誌の取材に応じる中沢さんの弟・昭彦さん(仮名)。兄の遺品から出てきた領収書の束を前に、声を詰まらせた=都内某所
兄の部屋から、教団名義の領収書が段ボール一箱分出てきました。入会金五千円、月会費三千円──ここまでは分かるんです。でもそれ以外に『特別感謝献金』『魂の浄化寄付金』『先生への感謝の供物』という名目で、一回あたり三十万、五十万、百万という金額が並んでいて……
──中沢昭彦さん(仮名)

合計で二千八百万円──昭彦さんの手がテーブルの上で震えていた。退職金が二千二百万円、貯蓄が約八百万円で、合わせて三千万あったはずの兄の資産。死亡時の口座残高は二万三千円だった。

入信から約八ヶ月。月平均三百五十万円のペースで金が消えた計算になる。

兄は去年の秋くらいから変わりました。『先生のおかげで生まれ変われた』『愛を実践することが人間の本質なんだ』と繰り返すようになって。セミナーで教わった言葉らしいんですが、まるで台本を暗唱しているようでした。以前の兄は他人の受け売りを嫌う人だったのに
──中沢昭彦さん(仮名)

記者が訊ねた。「お兄さんは、騙されていると感じていなかったのでしょうか」

昭彦さんは首を横に振った。

「それが一番怖いところなんです。兄は供物を出すたびに、むしろ幸せそうだった。『先生に感謝を形にできた』『愛の実践だ』と。私が止めようとすると怒るんです。穏やかだった兄が、教団のことになると目つきが変わった」

名目 時期 金額
入会金・月会費(八ヶ月分) 入信時〜 二万九千円
心の深化コース(月額) 入信三ヶ月目〜 二十五万円
特別感謝献金(計十二回) 入信四ヶ月目〜 一千二百万円
先生との魂の対話(月額十万×四回) 入信五ヶ月目〜 四十万円
魂の浄化寄付金 入信七ヶ月目 八百万円
先生への感謝の供物 入信八ヶ月目 七百万円
合計 約二千八百万円

CASE 2 ◇市のケース──三十七歳、シングルマザーの転落

◇市に住む小柳加奈子さん(仮名・三十七歳)が高層マンションの屋上から転落死したのは今年一月八日の午前四時ごろだった。警察は自殺と断定している。

小柳さんは七歳の長男を一人で育てるシングルマザーだった。三年前に離婚。パートを三ヶ所掛け持ちしながら、息子の養育費を捻出する日々を送っていた。

小柳さんが「真心の泉」◇市の集会所に通い始めたのは一昨年の秋だ。母親の野崎トシ子さん(仮名・六十八歳)はこう語る。

加奈子は入信してしばらくは、やっと居場所ができたと安心した顔をしていました。でも半年くらいからお金を貸してくれと言ってくるようになって。最初は三万、次は十万、その次は三十万。理由を聞いても「感謝の気持ちだから」としか言わない。教団のことを聞くと怒り出すようになりました
──野崎トシ子さん(仮名)

小柳さんの預貯金は約三百万円だった。離婚時の慰謝料と、パート三ヶ所を掛け持ちしてコツコツ貯めた金だ。

死亡時の口座残高は四千二百円

息子のために積み立てていた学資保険も解約済みだった。

孫の将来のためのお金まで……。あの子は最後まで教団のことを悪く言いませんでした。『私は愛を学んでいるの。お母さんには分からないかもしれないけど、これは自分への投資なの』って。投資って。パートを三つ掛け持ちして貯めたお金が、投資?
──野崎トシ子さん(仮名)

野崎さんはそこで言葉を失った。テーブルの上の湯呑みが冷めていくのを、記者は黙って見ていた。

「真心の泉」──教団の正体を追う

宗教法人「真心の泉」 概要
正式名称宗教法人 真心の泉
設立二〇一八年(法務局登記)
代表者鳥飼真人(五十三歳)※旧姓・片桐昭夫。二〇一六年に改名
所在地東京都○区の雑居ビル二階(登記上の本部)
拠点数都内西部に五箇所の集会所
信者数公称三百名(実数は不明)
教義「愛は言葉ではなく、行いのなかに」
入会金五千円 月会費三千円
前歴改名前は不動産仲介業。民事訴訟歴三件(手付金トラブル等)
特徴パンフレットに教祖の顔写真なし。信者間では「先生」と呼称

本誌の取材で判明した教団の収奪構造を整理してみよう。

入口は月会費三千円。安い。立ち食い蕎麦四杯分のハードルで門戸を広く開ける。入信後三ヶ月を過ぎると「心の深化コース」なる上位プログラムへの参加が勧められ、ここから金額が跳ね上がる。さらに半年を過ぎると代表・鳥飼真人との「個別面談」の権利が月額十万円で提供される。信者の間ではこの面談を「魂の対話」と呼んでおり、面談を受けた者は例外なく「感謝の供物」として多額の寄付を行うようになるという。

携帯電話の二年縛り契約のようなものだ。入口を広く開けて、奥に進むほど抜け出しにくくなる。

気になるのは資金の流れだ。信者三百名の月会費三千円では月の固定収入は九十万円。五箇所の集会所の賃料と光熱費を考えれば赤字のはずだ。だがこの教団は赤字ではない。赤字でないどころか、中沢さんのケースだけで二千八百万円を吸い上げている。これが三百名の信者のうち何名で発生しているのかは、現時点では分からない。

▶ 識者コメント
「入口のハードルを低く設定し、段階的に献金額を引き上げていく手法は、いわゆる献金トラブルの典型です。旧統一教会の手法と構造的に酷似している。特に『感謝の供物』という名目は巧妙で、信者自身が"自発的に"寄付したと認識するため、後から返金を求めることが極めて困難になります」
──全国霊感商法対策弁護士連絡会委員 A弁護士

もうひとつ不可解なのは、教団の活動実態がほとんど外部に漏れてこない点だ。信者のSNSアカウントを調査したが、入信後の投稿は一様に激減している。教団がネット上の情報発信を制限しているのか、あるいは信者自身が自発的に外部との接触を断っているのか。

中沢さんの弟は「兄の携帯電話を確認したが、教団関係者以外とのやり取りがほぼゼロだった」と語る。小柳さんの母親も「最後の半年は、私からの電話にも出なくなった」という。外部との断絶。これがこの教団の恐ろしさの本質かもしれない。

【取材を終えて】 円形のパイプ椅子

取材の過程で、記者は教団の本部がある○区の雑居ビルを訪れた。築三十年ほど、外壁のタイルが数枚剥落した四階建て。一階は元・何かの店舗、二階が「コミュニティスペース泉」。セミナーのない平日の午後。ドアは施錠されていたが、ガラス越しに中を覗くことはできた。

パイプ椅子が円形に並んでいた。壁に横断幕が一枚。「愛は言葉ではなく、行いのなかに」。大した設備はない。安い蛍光灯が白い光を落としている。それだけの場所だ。

記者の目を引いたのはパイプ椅子の配置だった。円形。一つだけ他の椅子よりわずかに中央寄りに置かれた椅子がある。「先生」の席なのだろうか。その椅子だけが、他の椅子より座面が高く見えた。気のせいかもしれない。

ガラス越しに眺めているだけなのに、妙な圧迫感があった。中沢さんはこの部屋に毎週通い、ここで三千万円を差し出す「感謝」を学んだのだ。小柳さんはこの部屋で、息子の学資保険を解約する「愛の実践」を身につけたのだ。

正直に告白すれば、この取材には疲れた。中沢さんの弟が見せてくれた領収書の束を見ていると、これまで取材してきたどのカルト事件とも少し毛色が違う気がした。

通常のカルト教団は恐怖か罪悪感で金を巻き上げる。「先祖の霊が怒っている」「このままでは不幸になる」。いわゆる霊感商法の手口だ。だが「真心の泉」の信者たちは、恐怖ではなく「感謝」で金を出している。自分から喜んで差し出している。騙されている自覚がない。それどころか指摘すれば笑顔で否定するだろう。

「私は愛を学んでいるんです」と。

この笑顔が一番怖かった。

(了)──御庭場真一
次号予告
「真心の泉」教祖・鳥飼真人の正体──三度の改名と消えた不動産資金の行方